マルチパステストはISO16889で定められた規格です。この規格では、フィルターの粒子除去能力を粒径毎にベータ値(βx(c))で表します。ここで、xは粒径です。ベータ値はフィルターの上流側の粒径xμm(c)以上の粒子数Aをフィルターの下流側の粒径xμm(c)以上の粒子数Bで除した値(βx(c)=A÷B)で表します。例えば、粒径10μm(c)以上の粒子に関して、A=10,000個/mlで、B=100個/mLであれば、ベータ値β10(c)=A÷B=10,000÷100=100となります。ここで、長さの単位μmの後の(c)は、自動粒子計数器の校正法ISO11171を使用したことを示します。
マルチパステストは、フィルターろ過性能の比較テストです。同一のテスト条件でベータ値を測定し、各測定粒径毎のベータ値を比較します。フィルターメーカーのカタログなどテスト条件を統一できない場合、粒径とベータ値の測定結果からベータ値が2、10、75、100、200、1000となる粒径を比例計算で算出し、βd1(c)=2、βd2(c)=10、βd3(c)=75、βd4(c)=100、βd5(c)=200、βd6(c)=1000、と表します。これは、ISO16889でも推奨している表し方です。
マルチパステスト結果を次の例で比較しましょう。
フィルターA、およびBのテスト結果が次のような場合、
A: β5(c)=7、β7(c)=22、β10(c)=150、β12(c)=550、β15(c)=2100、β17(c)=3400
B: β5(c)=12、β7(c)=25、β10(c)=95、β12(c)=220、β15(c)=660、β17(c)=1100
フィルターAは、Bに比べベータ値が高く、除粒子性能の高いことが分かります。粒径が小さな時には、Aのベータ値はBに比べ高いですが、機器に与えるダメージは、相対的に大きな粒子が大きいため、できる限り高いベータ値の領域で比較します。
ベータ値がISO 16889で規定する2、10、75、100、200、1000となる粒径で比較する場合を説明します。測定結果から上記ベータ値となる粒径を比例計算で求め、比較します。次の例でフィルターAとBの性能を比較しましょう。
A: β2.7(c)=2、β5.8(c)=10、β9(c)=75、β9.5(c)=100、β10.5(c)=200、β13.3(c)=1000
B: β2.7(c)=2、β4.3(c)=10、β9.5(c)=75、β10.1(c)=100、β11.8(c)=200、β16.5(c)=1000
前回と同様に、ベータ値の高い領域でフィルター性能を比較します。ベータ値が1000となる粒径でAは13.3μm(c)、Bは16.5μm(c)。したがって、フィルターAはBより精密なフィルターであると云えます。
マルチパステストでは、ベータ値以外にフィルターの集塵量も測定します。フィルターエレメントの最終試験差圧に達するまでに、フィルターエレメントが捕捉する試験ダスト(ISO MTD)の量で、質量gで表します。集塵量は同等のベータ値をもつフィルターエレメントの捕捉量比較に使用します。集塵量が多い程、フィルターが異物を保持する能力が高く、その結果、長い寿命が期待できます。
しかし、集塵量をフィルター寿命に直接関連づけることはできません。例えば、ベータ値の同等なフィルターAとBの集塵量比が2:1の場合でも、寿命比が2:1になると予想することはできません。
(続く)
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執筆:伊澤一康