潤滑油の主な機能は、摩擦、摩耗、腐食、温度および汚染を抑制することです。作動油には、これらに加えて力の伝達機能が要求されます。これらの機能を果たす作動油および潤滑油は、基油と添加剤で構成されています。基油には、油田から採られる原油を精製した鉱油、原油を精製した化学原料のナフサから合成される合成油、植物から抽出された植物油があります。潤滑油として期待される要求を満たすために、基油の持つ固有の特性に加え、基油の特性の更なる強化、基油の持つ潤滑油としては望ましくない特性の抑制、および基油が持っていない特性の付加として、添加剤が使われています。
潤滑油(作動油を含む、以下同様)基油の代表的な物性は、粘度、粘度指数、流動点、引火点、アニリン点、不純物であり、潤滑油の基本的な性能に影響を与えます。
物性 | 説明 |
粘度 |
流体の粘り気を表す値です。粘度が大きい程、粘り気が大きくなります。 |
粘度指数 |
温度による粘度の変化を表す指数です。指数が大きい程温度による粘度変化が少ないことを示します。 |
流動点 |
流体が流れることのできる最低の温度です。 |
引火点 |
可燃性液体を加熱して特定の条件下で小さな炎を近づけた時、空気との引火性混合物を瞬間的に作るに十分な蒸気を放出する最低加熱温度。 |
アニリン点 |
基油が添加剤を溶解する能力の目安を示し、低い程、添加剤を溶解する能力に優れます。 |
不純物 |
精製度に依存しますが、基油中に残留する硫黄、窒素、酸素化合物などで、基油の安定性に悪影響を与えます。芳香族炭化水素も安定性に悪影響を与えます。 |
潤滑油の基油の90%以上は鉱油です。鉱油系基油はパラフィン系とナフテン系の炭化水素に大別できます。パラフィン系炭化水素は炭素が鎖状に結合しています。粘度指数が高く、酸化安定性などに優れています。ナフテン系炭化水素は環状に炭素が結合しています。粘度指数が低く、酸化安定性は悪いですが、流動点が低く添加剤の溶解性が良いなどの特徴を持っています。
▼パラフィン系及びナフテン系基油の主な含有成分(%)
基油タイプ |
パラフィン |
ナフテン |
芳香族 |
ワックス |
アスファルト |
硫黄 |
パラフィン系 |
45~60 |
20~30 |
15~25 |
1~10 |
0~5 |
0.5 |
ナフテン系 | 15~25 | 65~75 | <10 | 微量 | 0~5 | 1 |
潤滑油用の基油について、米国石油協会(American Petroleum Institute、API)では、基油に含まれる飽和分量、硫黄分の残量、粘度指数などによってグループⅠ~Ⅴの5種類に分類しています。グループⅠ~Ⅲは、鉱油系潤滑油であり、溶剤精製処理のグループⅠ基油から水素化処理のグループⅡが一般的でしたが、最近は、水素化分解法によって精製度を更に向上したグループⅡ+とグループⅢ基油が使われ始めています。グループⅣ~Ⅴはナフサから化学合成によって人工的に作り出された合成系潤滑油です。グループⅣはポリアルファオレフィン(PAO)で、グループⅤ基油は、その他の合成油で、エステル系基油が含まれます。API気油分類を下表にまとめます。
▼API(米国石油協会)基油分類
グループ | 飽和分質量 | 硫黄分質量 | 粘度指数 | 処理方法 | |
Ⅰ | <90% | および/または | >0.03% | 80~119 | 溶剤精製 |
Ⅱ | >90% | および | <0.03% | 80~119 | 水素化処理 |
Ⅱ+ | >90% | および | <0.03% | 100~119 | 水素化処理 |
Ⅲ | >90% | および | <0.03% | >120 | 重度の水素化分解 |
Ⅳ | ポリアルファオレフィン(PAO) | 化学合成 | |||
Ⅴ | その他の合成油 | 化学合成 |
精製度を高めたグループⅡ+又はⅢの高性能鉱油は、グループⅠの溶剤精製鉱油の標準的な鉱油に比べ、次表に示すように不純物や不飽和分子の含有量が非常に少ないという特性を持っています。そのため、これら高性能鉱油は、潤滑性、揮発性、乳化性、毒性、使用温度範囲、寿命、流動点、粘度指数、抗酸化性などに極めて優れています。
▼高性能鉱油の特性
特性 | 標準鉱油 | 高性能鉱油 |
飽和分子(質量%) |
75-90 | >99 |
芳香族(質量%) |
10-15 | <0.1 |
水(ppm) |
200-1,500 | <200 |
硫黄(ppm) |
50,000-150,000 | <10 |
窒素(ppm) |
20-50 | <2 |
色相(ASTM D1500) |
0.5-1.0 | <0.5 |
執筆:伊澤一康