必要に迫られて……というメンテナンスではなく、特に問題が起こっているとも見えない工場において、ちょっとした“お節介”が機械の寿命を大きく延ばす可能性がある。
次のような試みを、ぜひやってみてほしい。
【ステップ1】
メモ帳を用意して工場に入り、“重要な機械”を見てまわる。ここで“重要な機械”というのは、故障する可能性が大きかったり、故障すると影響の大きい機械のことであって、こうした機械には、分不相応なほどのメンテナンス予算を注ぎ込む価値があるのだ。
【ステップ2】
重要な機械ごとに、使用を開始してから現在までに行った潤滑関連の改善事項をメモ帳にリストアップして、“変更一覧表”を作る。最近5年間に行った改善には、特に注意すること。一覧表を充実させるために、先輩の助言をもらうのもいいだろう。
【ステップ3】
“変更一覧表”に記載した項目を下記の4つのカテゴリーに分類し、それぞれ次のような観点から検討する。
潤滑剤
どういう理由で現在の潤滑剤を選んだのか、次の特性について検討する:運転温度における粘度、最小粘度指数、NLGIちょう度番号、増ちょう剤の種類、添加剤、基油のタイプ、使用時の性能(たとえば酸化・腐食の防止、空気・水の排出、油膜強度、沈殿物の制御など)。なお、OEMメーカーのアドバイスや、使用説明書に記載されているような一般的推奨策は、改善事項に該当しない。
潤滑管理
どういう理由で現在の潤滑法を採用したのか、次の点について検討する:潤滑剤の配送/給油・給脂方法、更油間隔/再給脂間隔、潤滑剤量の決定、潤滑方針(作業手順の文書化や潤滑教育などによる)。この場合も、もともと機械に添えてあった標準的方法は、改善事項に該当しない。
汚染管理
改良されたフィルター、ブリーザー、シール、ヘッドスペース管理など、現在の汚染管理と改善策を評価する。ここでのキーワードは「改善」である。
油分析、PMおよび点検
潤滑状態の監視がどれほど向上しているのか、次に掲げるような改良点について検討する:後付けを含む“生きている”部分(ライブゾーン)のサンプルポート、レベル計とサイトグラス、分析用サンプリング装置と分析手順、警報装置と限界値の設定、現場および実験室における日常的な分析と分析記録、分析頻度、データの判断基準、異常への対応、点検ツール、点検頻度、点検技術)。ここでも注意すべきことは、上記各事項がどのように改善され、以前より高い精度で実地に適用されているかという点である。
【ステップ4】
完成した変更一覧表と、上記四つのカテゴリーに分類した項目にもとづいて、重要な機械を下記のランクに分類する。
並:変更も改善もされておらず、百年一日のやり方で取り扱われている機械。摩耗と故障は当然のこととして受け入れられていて、経営者も変更・改善による利益を計りかねている。
上:変更や改善が消極的に、時たま行われている機械。過去に少しは積極的な対応を試みられたが、その試みは支持を失ってしまい、大昔のやり方に戻ってしまったわけだ。それでも少しは改良の跡が残っている。
特上:信頼性上と潤滑の改善を目指して、積極的に革新的な対策がとられている機械。効果がないアイディアはさっさと捨てて効果的な対策に変えるなど、レベルアップのためにさまざまな方法がとられている。
【ステップ5】
ランクアップを図る:読者の会社の機械の状態が、私たちが潤滑診断でよく見る機械と同じようだとすると、その機械の重要性とは無関係に、ほとんどの機械が“並”、あるいは“上”の範疇に入ると思われる。ステップ3の検討にもとづいてそれぞれの機械のランクを認識し、ランクアップを図るのは、それほどむずかしい話ではない。これをやらない手はないだろう。
“お節介”のメリット
慣習に抵抗して改革を進めるのは、潤滑の分野であれ他の分野であれ簡単なことではない。いまお話をした“お節介”をしようとすれば、少なくともはじめのうちは抵抗に出会う。
しかし、図に示す余寿命(RUL:Remaining Useful Life)のグラフを見てほしい。縦軸は一般的なRULを0から100%目盛りで表していて、機械の使用開始時には、当然のことながらRULは100%である。横軸は機械の使用期間を、時間単位で示している。いま高負荷がかかった機械を一つ仮想して、三つのメンテナンス方法で寿命がどう変わるかを考えてみよう。
真ん中の直線が典型的な「教科書的」メンテナンスの場合で、20%のRUL(寿命の80%が消費された)で使用を止めることにすると、この機械の寿命は8,000時間ということになる。標準以下、あるいはいい加減なメンテナンスをした場合が左の直線で、たとえば寿命5,000時間の急勾配な線になる。それらに対し“お節介”なメンテナンスこそが、直線の傾きをなだらかにし、14,000時間に達する著しい寿命延長をもたらす方法なのである。
“お節介”は、故障が顕在化する前に手を打とうという、情熱がドライブする戦略である。そのメリットとは裏腹に、まだ壊れてもいない機械をいじろうというわけだから、関係筋を説得するのは気が滅入るほどの大仕事であり、確実な事実とデータを手許に準備しておかなければ成功はおぼつかない。付け加えておくが、変更にはリスクが伴うから、改革マニアになってはいけない。まず十分に下調べをし、同じ道を歩いた先輩から、いろいろアドバイスをもらうべきである。そしてリスクの大きいポイントについては、しっかりした不測事態対応計画(コンティンジェンシー・プラン)を立てておかなければならない。そこではじめて実行に移り、必要とあらば調整をして、戦略に磨きをかけるのだ。
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