第2章 三つのラインフィルター

 油圧設備でのフィルターの代表的な設置個所は3か所に分類できます。圧力ライン、戻りライン及びオフラインです。

 圧力ラインフィルターは油圧ポンプ吐出側の高圧部に設置するフィルターです。油圧制御系に清浄な作動油を供給します。戻りラインフィルターは仕事を終えて油タンクに戻る手前の低圧部に設置するフィルターです。油圧シリンダーを含む油圧制御系で発生した固形コンタミナントによる油タンクの汚染を防止します。オフラインフィルターは、油タンク周りに設置するろ過専用のポンプによって作動油をろ過するフィルターです。圧力ラインフィルターや戻りラインフィルターの補助的な役割を担います。

 

 圧力ラインフィルターは、油圧ポンプから供給される作動油全量をろ過し、最も清浄な作動油を油圧制御系へ供給できます。また、油圧ポンプの故障や老朽化による摩耗粉の発生量増加に対しても、必ずろ過、清浄化された作動油が油圧制御系へ供給されるために、油圧回路全体を摩耗粉で汚染することもなくなり、メンテナンスの作業を軽減できます。しかし、圧力が高いことから、他の設置個所より初期フィルターコストで不利になります。更に、油圧シリンダーから侵入する塵埃などから油圧ポンプを守ることはできません。

 

 戻りラインフィルターの働きは油圧シリンダーのロッドなどから混入した汚染異物や機器内部で発生した摩耗粉を除去し清浄な作動油をタンクへ戻すことです。油圧ポンプの摩耗低減に最も効果的な設置位置になります。圧力ラインフィルターに比べ、低圧であるために経済的に有利ですが、油圧システムで背圧を高くできない場合、フィルターが大きくなります。また、油圧シリンダー設置のシステムでは、流れの脈動の影響もあり、大き目なフィルターの選定が必要な場合もあります。

 

 タンク内の作動油をろ過するポンプとフィルターの循環回路のフィルターをオフラインフィルターといいます。このフィルター単独で高い清浄度を維持、又は達成することは困難です。通常、圧力ラインフィルターや戻りラインフィルターの寿命を延長するときや、もう一段高い清浄化が必要なときに、補助フィルターとして使用します。

 オフラインフィルターの利点としては、設備の運転中でも設備を停止することなくフィルターの交換が可能なこと、逆に、設備の停止中でもタンク内の作動油の清浄化が可能なことがあります。

 

 オフラインフィルターが圧力や戻りラインフィルターの補助としての機能である理由を理論的に考えてみましょう。

 タンク内の油量V(L)、オフラインフィルター循環流量Q(L/min)、タンク内初期清浄度Ni(個/L)とすれば、t分後のタンク内清浄度Nt(個/L)はNi・exp(-tQ/V)で表せます(フィルター除去効率が100%のとき)。V=1000、Q=50、Ni=1000とすれば、タンク内、即ち油圧制御系へ供給される清浄度がNt=1となるには、t=約140(min)要することになります。

 これに対し、β5(c)=1000の圧力ラインフィルターを設置すれば、瞬時にNi/β5(c)=1000/1000=1(個/mL)に改善します。

 この例のように、油圧制御系を守る機能としてはオフラインフィルターの効率は良くありません。そのため、補助機能として使用することになります。

 

 オフラインフィルターが補助的な役割と説明しましたが、圧力や戻りラインフィルターと併設することが望ましい場合もあります。圧力補償やロードセンシング機能付の油圧ポンプを用いるシステムの場合です。例えば、圧力を維持し、負荷を一定の力で押し続けるような用途では、圧力や戻りラインフィルターを通過する流量の積算値は非常に少なくなり、目標清浄度を達成することが困難な場合があります。このようなときには、オフラインフィルターを設置すべきです。その他、プログラムに従って頻繁に油圧ポンプの起動と停止のあるシステムも同様です。

 常にフィルターの通過流量を考慮し、フィルターの設置個所を検討することが必要です。

(続く)

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執筆:伊澤一康

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