日本では、ISO清浄度コードよりもNAS等級(NAS 1638)が多く活用されています。NAS等級は5~15μm、15~25μm、25~50μm、50~100μm、100μm以上の5種類の粒径範囲毎に、最も清浄な00級から最も汚れた12級までの14種類の等級で表します。
各等級は100mL中に含まれる各粒径範囲の粒子数の上限値を示しています。例えば、NAS7等級の粒子数の上限値は5~15μmの粒径範囲で32,000個/100mLとなります。同じ粒径範囲でNAS6等級の上限値は16,000個/100mLとなります。したがって、この粒径範囲でNAS7等級の流体100mL中には、16,000個を超えて32,000個までの粒子が含まれていることになります。
NAS等級(NAS1638)は1963年に制定されましたが、技術の進歩にも関わらず、一切の改定も行われませんでした。1963年当時は、光学顕微鏡による粒度分布測定でしたが、最近は自動粒子計数器技術の進歩により、光学顕微鏡は用いられなくなっています。自動粒子計数器と光学顕微鏡による粒径の定義が異なるため、1999年制定の自動粒子計数器の校正方法である「ISO 11171」では、光学顕微鏡粒径の5μm、15μm、25μm、50μm、100μmに対応する自動粒子計数器の粒径を6μm(c)、14μm(c)、22μm(c)、38μm(c)、70μm(c)と設定しています。その結果、NAS等級は、等級表の旧粒径範囲を6~14μm(c)、14~22μm(c)、22~38μm(c)、38~70μm(c)、70μm(c)以上に置き換えて表します。
NAS1638は、新粒径範囲を定義していません。したがって、自動粒子計数器によって測定した粒度分布からNAS等級を求めることはできません。NAS1638に代わって米国自動車技術者協会規格:SAE AS 4056Eで光学顕微鏡による計測粒径と自動粒子計数器による粒径を併記した清浄度等級を定義しています。この規格が、NAS1638と一致する等級を表します(表2)。光学顕微鏡を使用して粒度分布を測定した場合、粒子計数を5~15μm、15~25μm、25~50μm、50~100μm、100μm以上からNAS等級を求め、自動粒子計数器を用いた場合、6~14μm(c)、14~22μm(c)、22~38μm(c)、38~70μm(c)、70μm(c)以上の粒径範囲からNAS等級を求めます。
下表にISO清浄度コードとNAS等級の表し方の例を示します。作動油中の固体汚染粒子の粒子計数を自動粒子計数器で実施した結果からISO清浄度コード及びNAS等級を、それぞれの表から求めた結果です。ISO清浄度コードとNAS等級を求める場合、注意事項が2つあります。粒径範囲とサンプル容量です。ISOの場合、粒子数を1mL中の累積粒径で表しますが、NAS等級では、100mL中の区間粒径で表します。
NAS等級(SAE AS 4056E表2)は、ISO4406清浄度コードに比べて広い粒径範囲を対象として清浄度を表しますが、21μm(c)以上の粗い粒径範囲の結果を評価するときには、注意が必要です。特に、試料油を試料瓶に採取し分析する方法では、試料瓶内の汚れを含め、試料油採取から分析に至る工程での試料油への汚染の影響が大きくなり、実際(真)の清浄度よりも汚れた結果となります。例えば、NAS7級の場合、6~14μm(c)の上限は32,000個に対して、38~70μm(c)は180個です。試料油への汚染が1,000個の場合、6~14μm(c)の粒径範囲ではNAS7~8級で影響は少ないですが、38~70μm(c)はNAS9~10級と大幅に悪化したように見えてしまいます。
試料油の分析結果を、例を用いて考えてみましょう。試料瓶に採取した油を光遮蔽式の自動粒子計数器で測定した結果、表4のような結果になったとします。この油のNAS等級は、全粒径範囲で最も清浄度が悪い等級で表す場合が多く、70μm(c)以上の粒径範囲のNAS10級の評価となります。油圧や潤滑設備には、フィルターが設置されていることが多く、粗悪なフィルターでも大きな粒子は除去します。特に、この例の場合、38μm(c)以下の粒子に関して、NAS7級以下と比較的清浄で、良く管理されています。そのような管理状態で38μm(c)以上がNAS10級とは考えられません。この原因は、試料採取時のフラッシング不足、汚れた試料瓶、測定器のフラッシング不足などによる試料油への汚染です。したがって、この油の清浄度はNAS6、あるいは7級と評価できます。